エンリッチドエアー(ナイトロックス)で快適なダイビングをしよう!
初心者ダイバー向けのコース(PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コースなど)でも、必ず教わっているエンリッチドエアーですが、空気よりも酸素濃度の高いエアーを使って、潜ることだと知っていても、実際に体験している人が多くないのが実情です。
しかし、海外では一般の空気のタンクよりも、エンリッチドエアーを詰めたタンクの方が主流になっているところもあり、ダイブクルーズでは全てのエアーがエンリッチドエアーとなっているところもあるほど普及しています。
日本では法律の問題があったり、コストが高かったりして、エンリッチドエアーの普及が進んでいませんでしたが、安全に安価でエンリッチドエアーが供給できるようになってきて、徐々に普及が進み、利用している人が増えてきています。
この記事では、初心者でもわかりやすいようにエンリッチとは何かについて説明し、エンリッチドエアーを使うことによるメリットや、注意点についてまとめていきます。
目次
1.エンリッチドエアー(ナイトロックス)とは
エンリッチドエアーを英語で書くと「Enriched Air」となりますので、直訳すると充実した空気となります。何が充実しているかと言うと酸素ということになりますが、酸素濃度が高いエアーのことをエンリッチドエアーと言っています。
一般的な空気の構成をおおまかに言うと、酸素が2割で、窒素が8割(正確に言うと酸素が21%で、窒素が78%、二酸化炭素などのその他気体が1%)です。それよりも酸素のパーセンテージが高い空気をエンリッチドエアーと呼びます。
2.エンリッチドエアーとナイトロックスの違い
「ナイトロックス」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。マニュアルではエンリッチドエアーと言っているし、ベテラン・ダイバーはナイトロックスと言っていますが、この2つの言葉の違いを理解している人は少ないようです。
ナイトロックスを英語で書くと、「NITROX」ですが、窒素「NITR-OGEN」と酸素「OX-YGEN」が合わさった造語です。つまり、窒素と酸素の混合気体ということになり、酸素濃度の高低に関わらず、窒素と酸素が混ざっていればナイトロックスということになります。
酸素濃度が低いエアーを使うことがあるかと、疑問に思う人がいるかもしれませんが、後述するように酸素中毒を防ぐために深いところで作業を行うダイバーは、酸素濃度の低いナイトロックスガスを使うことがあります。
ただし、レジャー・ダイビングの世界では、酸素濃度の低いエアーを使うことはありませんので、エンリッチとナイトロックスは同じ意味だと思っていても、何の問題もありません。この記事では、エンリッチドエアーという言葉を中心に使っていくことにします。
3.エンリッチドエアーの製造方法
エンリッチドエアーはどのように作っているのか、疑問に思っている人もいるでしょう。空気に酸素を混ぜているだろうと思っている人が多いと思いますが、実際にそのような製造方法をしていることもあります。
酸素を追加してエンリッチドエアーを製造する方法は、火災や爆発の危険性のある酸素を大量に保管・使用するには法律の縛りがあり、届け出と許可が必要です。
また、実際に爆発や火災の危険を伴います。酸素を購入する費用もかかり、複雑な工程でエンリッチドエアーを製造するため、製造コストが高くなってしまう問題もあります。
現在主流になりつつある製造方法は、メンブレン方式と呼び、メンブレン=膜を使って、空気から酸素濃度の高いエアーを作り出す方法です。窒素よりも酸素のほうが通過しやすい膜に向けて、空気を吹き付けて通過してきた気体を集めることによって、酸素濃度の高いエアーを作り出します。
現在の機器では、酸素濃度が40%を超えるエアーを作ることはできませんが、ダイビングで使うには十分な酸素濃度のエアーを作り出せます。
そして、高価で安全性に問題のある酸素を使わなくても、エンリッチドエアーを作れて、メンテナンスをすれば機器は半永久的に使えることもあり、メンブレン方式が普及すれば、安全に安くエンリッチドエアーを使うことができるようになります。
4.エンリッチドエアーの利点【5選】
酸素濃度の高いエンリッチドエアーを使えば、減圧症の危険性が下がることを知っている人は多いですが、それ以外にもエンリッチドエアーを利用するメリットは他にもあります。メリットをまとめると次の5点になります。
1.減圧症の危険性が下がる
2.長く潜ることができる
3.潜れる本数が増える
4.疲れにくくなる(と言われている)
5.ガス昏睡(窒素酔い)が軽減する
それぞれのメリットについて、ひとつひとつ説明していきます。
エンリッチドエアーの利点①減圧症の危険性が下がる
酸素濃度が高いということは、減圧症の原因になる窒素濃度が下がることになります。一般的な空気と同じ深度に潜ったとすると、体の中に溶け込む窒素の量が少なくなりますので、減圧症のリスクが低減します。
エンリッチドエアーの利点②長く潜ることができる
エンリッチドエアーの方が普通の空気よりも、窒素濃度が低いので、減圧不要限界(レジャーダイバー向けに言うと、ある水深に潜水できる最大時間)が長くなります。
例えば、水深18mの海に潜るとすると、普通の空気で潜った場合の減圧不要限界が56分なのに対して、酸素濃度32%のエンリッチドエアーでは減圧不要限界が95分に、酸素濃度36%の場合には125分が減圧不要限界になります。
エンリッチドエアーの利点③潜れる本数が増える
沖縄や海外に潜りにいくときには、午前中に2本、午後に1本で1日に3本潜ることは珍しくありません。ダイブクルーズの場合には、早朝からナイトまで1日に5本も潜ることがあります。
ダイビングをすると体に窒素が溜まって、休憩中に体にたまった窒素が排出されていきますが、反復ダイビングの場合には、完全に抜けきる前に次のダイビングを行います。
すると1本目よりも2本目、2本目よりも3本目の方が体に溜まっている窒素が多い状態でダイビングをスタートしなければいけません。
そのため、十分に楽しめる時間のダイビングを行うには、水面休息時間を多く取らなければいけません。エンリッチドエアーを使えば、体内に溜まる窒素量を空気より抑えることができるので、より短い水面休息を取るだけで済むため、結果的に潜れるダイビング本数が増えることになります。
リゾートにダイビング・ツアーにいくときには、飛行機を使って移動しますが、気圧の下がる飛行機で減圧症にならないように、ダイビングを終えた後に18時間以上経ってから搭乗するように指導されています。
エンリッチドエアーで潜れば、体内の残留窒素量を減らすことができるので、減圧症発生のリスクを減らすことができます。
エンリッチドエアーの利点④疲れにくくなる
エンリッチドエアーを使って潜った人の多くは、普通の空気で潜るよりも疲れにくいと言っています。これに関しては、医学的に証明されている訳ではありませんが、車でダイビングに行く人にとって、ダイビングで疲れた状態で運転をしなくてもよくなることは、大きなメリットになります。
エンリッチドエアーの利点⑤ガス昏睡(窒素酔い)が軽減する
深く潜ることによって、ガス昏睡(窒素酔い)と呼ばれる頭がボーっとしたり、冷静な行動が取れなくなるような症状が発生することがあります。
ほとんどの気体は圧力が高まることによって麻酔作用を発生するため、水深20mを超えるとガス昏睡の症状が発生し始めて、30mを超えると少なからずは全てのダイバーにガス昏睡の症状が発生するとされています。
酸素にも麻酔作用はあるのですが、窒素よりもその作用は小さいので、普通の空気よりもガス昏睡の症状が起きにくいことは明らかです。
5.エンリッチドエアーの注意点
ここまではエンリッチドエアーの良いところばかり紹介してきましたが、エンリッチドエアーも万能な訳ではありません。しっかりと講習を受けて、利点だけでなく注意点も理解しておかなければ、身体的な問題点が発生します。エンリッチドエアーを使う上での注意点をまとめると、次の4点になります。
1.酸素中毒の危険性がある
2.減圧症にならない訳ではない
3.講習を受けないとエンリッチドエアーを利用できない
4.器材の使い方に注意
エンリッチドエアーの注意点①酸素中毒の危険性がある
エンリッチドエアーの注意で最初にあげられることになるのが、酸素中毒の問題です。酸素は生物が生きていく上で必要不可欠なもので、陸上では濃度100%の純酸素を吸っていても、何の問題も発生しません。しかし、圧力が高くなる水中では、酸素が毒となることがありえます。
ここでは分圧という言葉を、理解してもらわなければいけません。空気は酸素が2割で、8割が窒素とすると、陸上では空気圧が1気圧なので、酸素だけの気圧は2割なので、酸素分圧は0.2気圧となります。
酸素分圧が1.6気圧以上になると、めまいや意識を失うといった症状を伴う酸素中毒の危険性がでてきます。陸上では最大でも酸素分圧は1気圧以上ありえませんので、酸素中毒の危険性はありませんが、水中では気をつける必要があります。
ダイビングでは安全のために、酸素分圧は1.4気圧までと定められていて、普通の空気では水深56mを超えると酸素中毒の危険が出てきますが、レジャー・ダイビングでは最大水深40mと決められているので、酸素中毒を心配する必要はありません。
しかし、エンリッチド・エアーを使った場合には、32%では水深34mを、36%では水深29mを超えると、酸素分圧が1.4気圧を超えてしまうので、注意が必要になります。
エンリッチドエアーの注意点②減圧症にならない訳ではない
エンリッチドエアーを使うと、普通の空気よりも減圧不要限界は延長されますが、減圧症にならない訳ではありません。ダイコン(ダイブ・コンピュータ)をつけて潜るのが、今では普通です。
普通の空気で潜るときでも、なるべくダイコンの減圧不要限界に余裕をもって、ダイビングを終了するように忠告されていますが、エンリッチドエアーの時も同様、なるべく時間に余裕を持って浮上することをこころがけてください。
エンリッチドエアーの注意点③講習を受けないとエンリッチドエアーを利用できない
酸素中毒の危険性があったり、特別な器材を使ったり、設定を変更したりということがあるので、エンリッチドエアーのタンクを使って潜水するときには、講習を受けた証を提示しなければ、タンクを借りることができません。
PADIなどのダイビング指導団体では、スペシャリティ講習として、エンリッチドエアー・スペシャリティを開催しているので、受講するようにしてください。受講の証として、カードが発行されるので、持参することも忘れないようにしてください。
6.器材の使い方に注意
エンリッチドエアーのタンクを使って、潜るときには今まで使っていた器材をほとんどそのままで潜ることができます。ただし、レギュレータとダイコンだけは、エンリッチドエアーでのダイビングに対応しているかを確認しておいてください。
今どきのレギュレータでエンリッチドエアーに対応していない製品はほぼありませんが、古いレギュレータの場合には、対応していない場合があります。
レギュレータは1年に1回のオーバーホール(OH)が推奨されていますが、長期間OHをしていないレギュレータは、鉄粉が内部で発生して、鉄粉を燃料にして酸素濃度の高いエンリッチドエアーで発火しないとは言い切れないので、OHをしてから使用するようにしてください。
ダイコンも発売から10年以内のものであれば、酸素濃度の設定を変えれば、そのまま使用することができます。設定変更の方法は、説明書にも書いてありますが、スペシャリティ講習のときに必ず教えてくれます。
そして、海に潜るときには使わない器材ですが、エンリッチドエアーを使うときには、ダイビング前に必須の器材が、酸素濃度を測るアナライザーです。アナライザーは、自分で購入する必要はなく、無料でレンタルできます。
アナライザーの使用方法についても、スペシャリティ講習で習います。タンクには何%の酸素濃度のエンリッチドエアーが充填されているかを、タグやテープを使って示していますが、もしもタグが入れ替わっていたら大問題です。
必ず器材をセッティングする前に、アナライザーを使って、自分の目で充填されているエアーの酸素濃度が間違いないことを確認してから、ダイコンに酸素濃度を設定するようにしてください。
エンリッチドエアー(ナイトロックス)まとめ
海外でのダイビングでは普通の存在で、日本国内においても普及が進みつつあるエンリッチドエアーについての記事をメリットと注意点を中心にまとめてみました。
注意点について守ることは難しいものではないので、メリットを享受して安全に、快適に、そして楽しくダイビングを楽しんでください。
注意点にも載せていますが、エンリッチドエアーを利用するには、スペシャリティの講習を受ける必要がありますので、いつでも使えるように講習をあらかじめ受けておくとよいでしょう。
講習中にオプション・ダイビングで、実際にエンリッチドエアーを使って潜ることはありますが、学科講習だけでも講習を終えることができます。
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