【中級編】ダイビングの楽しみが広がる!水中写真 第10回ダンゴウオの撮り方

【中級編】ダイビングの楽しみが広がる!水中写真 第10回ダンゴウオの撮り方

水中写真9では、「本州のウミウシと沖縄のウミウシ」に分けて、「出会ってほしい」、そして「写してほしい」ウミウシを画像付きで紹介して、その撮影のシチュエーションに関しても具体的にお伝えしました。ウミウシ撮影のイメージや海の宝石らしく、きれいにかわいらしく撮る方法も知っていただけのではないでしょうか。

今回の水中写真10では、寒い海で生息するアイドル級の魚「ダンゴウオ」の撮影方法についてお伝えしていきます。まだダンゴウオに出会ったことがないダイバーは、一度出会うとそのキュートさに惚れてしまい、きっとファンになることは間違いないでしょう。

しかし、実際に撮るとなると準備をしっかりする必要があります。筆者の経験上、苦労したこと大変だったこともお伝えしていきますので、ぜひ参考にされてください。

1.ダンゴウオってどんな魚なの?

近年では観賞魚としても人気があるダンゴウオは冬場から春先にかけて、主に本州沿岸域で見られる小さな魚です。大きさは成魚で2~3cm、幼魚はミリ単位で、基本的には「指先の爪サイズ」の大きさと考えてもらっていいでしょう。写真の通り「丸っこい」体つきで岩場や「カジメ」という海藻に引っ付いてジッとしていることが多いです。

ダンゴウオの仲間は世界的でみると約30種いるそうです。どの種類も冷たく水温の低い海域を好みます。今回この記事で紹介している魚は、図鑑的な説明をするなら「標準和名ダンゴウオ」という種類です。本州の比較的暖かめの海でも発見例があり、筆者が知る限り和歌山県でも発見例があります。

ちなみに日本で見られるダンゴウオの仲間は、北日本近海を中心に10種類ほど生息が確認されています。ホテイウオ、フウセンウオ、ナメダンゴ、イボダンゴ等は主に東北や北海道の海で見られます。

今回ご紹介する「ダンゴウオ」の見られるところは主に青森県以南の本州の海です。タイドプールや浅瀬の岩礁域に生息しています。東日本では東北エリアや伊豆、福井県の越前海岸などで見られますし、西日本では鳥取県の田後、兵庫県の竹野海岸や佐津海岸、山口県の青海島等が撮影スポットとして知られています。

2.ダンゴウオの撮影でどんな機材を準備したらいいの?

先ほどもお伝えしたように、ダンゴウオはその形や表情から寒い時期の水中アイドル的存在の魚です。特にそのフォルムはあの有名なゲームの「スライム」を彷彿させるようで何とも言えないかわいさです。

ダンゴウオは擬態がとても上手ですし、その上とても小さな魚です。そのため最初はなかなか見つけられないと思います。まずはガイドさんに見つけてもらい撮影に集中するようにすることをおすすめします。

どんな環境に住んでいるのか等に慣れてくると、自分でも見つけられるようになりますが、水温が低い海ですので潜っていられる時間は暖かい海に比べて短くなります。その時間を有効に使うには、見つけることより写すことに集中するほうがいいと思います。

ダンゴウオはあまり泳ぐのがうまくない魚ですので、1回見つけてしまえば動き回ることはありません。海が比較的穏やかなときはじっくり撮れるとは思います。

ただダンゴウオは基本とても小さい魚ですので、コンデジのマクロモードでは寄ることが十分できず、ダンゴウオがボケてしまう、あるいは米粒より小さくしか写せないということもありえます。必ずクローズアップレンズを準備するようにしてください。

最近のコンデジでは「顕微鏡モード」などかなり接近できるカメラも増えてきています。その場合クローズアップレンズは不要となります。

ミラーレス等の一眼カメラの場合は、必ず「マクロレンズ」をセットするようにしましょう。そうそう動き回る被写体ではないので50mmクラスのマクロレンズでも撮影は可能です。

「ダンゴウオのキュートな表情を大きく撮りたい」という場合は、ハウジングの外から脱着できるクローズアップレンズを準備しておくといいでしょう。筆者の場合、後でお伝えしますが、「ダンゴウオの幼魚」を撮影するときは100mmクラスのマクロレンズを装着し、ハウジングの上からクローズアップレンズを使っています。

いずれの場合でもかなりダンゴウオに寄っての撮影となりますので、内臓ストロボでは光がきちんと当たらないことが考えられます。一連の記事で何度もお伝えしているように、水中写真のレベルアップには「外付けストロボ」は必需品です。少なくともダンゴウオを照らす水中ライトは絶対に用意していただきたいです。

3.ダンゴウオの撮影で水中カメラのAFモードの設定は?

ダンゴウオは動き回らず、岩の上や海藻にピッタリとくっついています。ですから簡単にピント合わせもできそうだと思われがちですが実はそうではありません。その理由は大きく2つあります。

1つは「カメラをダンゴウオに接近しているためピントがずれやすい」ということです。特にクローズアップレンズを使ったことがあるダイバーならよくわかると思いますが、ほんの少し手元がずれるだけでピントが合わなくなりピンボケ写真を量産してしまうのです。

陸上なら花や虫をクローズアップレンズ使用で写す時は必ず三脚を使うことでピント合わせができますが、水中では三脚はありません。そこでシビアなピントを合わせるための工夫が必要となります。

2つ目は「寒さで震えてピントが合わない」ということです。ドライスーツを着て、あらゆる寒さ対策をしても特にダイビングの後半は寒さを感じます。我慢しようとしても、体や手元は寒さを感じるとどうしても震えてしまいます。この震えがピントを狂わせてしまいます。やはりピント合わせの工夫は必要となります。

そこで設定するのが「シャッターを半押しにしているときはピントを合わせ続けてくれる機能」です。これはカメラメーカーに寄って呼び方が違います。「ALSERVO」とか「C-AF」などがその機能です。通常は動きが大きい被写体に使うオートフォーカスの設定ですが、動き回らない被写体でもシビアなピント合わせが必要な場合は私も使っています。

その時の状況で「S-AF」や「ONESHOT」のオートフォーカス設定から、水中で設定を切り替えることができるようにしておくことがいいでしょう。ピントのわずかな調整にも使える機能ですので知っておいてください。

4.ダンゴウオの撮影で背景は考えたほうがいいの?

答えから言うと「YES」です。ダンゴウオは擬態上手な魚ですので、ややもすれば背景と同じ色になってしまい、せっかくのダンゴウオのフォルムが背景に溶け込んでしまうことも多いのです。

特に「絞りを開けて写す」場合は考える必要があります。背景をぼかし、ダンゴウオを浮き出たせるように撮ろうとしている意図はわかりますが、ダンゴウオと背景が似たような色ならばダンゴウオが背景の中に溶け込んでしまい、目立たななくなってしまいます。

こうした場合は撮影の位置を変えてみるなどの工夫が必要となります。まず「絞りを変えて写してみる」ことをおすすめします。絞り優先モードがあるなら簡単に変えることが可能ですので、いろいろな絞りに設定して写してみてほしいです。

5.ダンゴウオの形はもちろん、表情も見よう

スライムのようなダンゴウオの丸っこい形もいいですが、「ダンゴウオの表情」にも注目してほしいです。目元や口もともこれまたとてもかわいらしいのです。そんな部分もぜひ写してみてください。

そのためにはカメラの位置と角度が大切になってきます。具体的には「ダンゴウオと同じ高さから写す」ことでいい表情が撮れるはずです。ぜひその位置と角度を探してみてください。その時場合によってはカメラ位置やダイバーの姿勢が不安定になってしまうかもしれません。この時に3でお伝えしたピント合わせのコツがあなたを助けてくれるはずです。チャレンジしてみてください。

6.ダンゴウオの幼魚「ニモダンゴ」にチャレンジしよう

成魚ですら2~3cmのダンゴウオですが、幼魚はさらに小さく1cmに満たないミリ単位の大きさです。しかし幼魚は成魚にないかわいさがあるのです。ダンゴウオのシーズン初めころには幼魚もけっこう見られます。ぜひ出会って写してほしいです。

ダンゴウオの幼魚は、その色合いや模様がカクレクマノミに似ていることから一部ダイバーからは「ニモダンゴ」という名前で呼ばれています。また幼魚のみ頭の上に輪状の模様ができることから「天使の輪」とも呼ばれています。

かなり小さな被写体ですので、ピント合わせはよりシビアになることは知っておいてほしいです。また、その表情や天使の輪をきれいに撮るには「クローズアップ」が必要となるでしょう。逆の発想としては、あえて小さく撮って周辺の海藻や貝と一緒に写すことでその小ささを際立たせてみてもおもしろい写真が撮れるかもしれません。

幼魚は見られるシーズンが短めですので、ガイドさんから情報をもらい1番見られる確率が高い時期に行かれることをおすすめします。

7.ダンゴウオの撮影を上手くなるためにスキルの向上が重要

ここまで読むときっと「出会ってみたい」とか「撮影したい」と思われたことでしょう。しかし冬場の海ならではの難しさがあることもぜひ知っておいてほしいのです。この項目では今回私の経験上から知っておいてほしい2つのことをお伝えします。

1つ目は「今日は潜れたとしても、昨日までは海が荒れていたかもしれない」と言うことです。何と言っても冬場の海です。特に日本海側は北風をまともに受けるので当然時化ていることが多いのです。

ダイビングの日は海が落ち着き潜れる状況であったとしても、水中は落ち着いておらず「透明度が最悪で1m先が見えない」ということも珍しくはありません。水底が3mだとしてもいざ潜り始めると「下が見えない恐怖心」を感じます。

その潜行時間がとても長く感じそこからパニックになることもありえるのです。経験本数が増え、ベテランになった私ですら慎重になってガイドとはぐれたときの打ち合わせ等を念入りにするほどです。

ガイドの指示に従うことはもちろんですが、こうした状況からもしも落ち着いてダイビングができないと思ったときは「潜ることをやめる」決断をすることも必要です。

2つ目は「水中のうねり」です。水面は穏やかでもダンゴウオのいる浅瀬の水底はけっこううねりが残っていて体を持っていかれることも少なくはありません。シビアなピント合わせが必要なダンゴウオの撮影にうねりは大敵で、海藻ごとダンゴウオがうねりにさらされていることもよくあります。

体の自由がこうしたときはききません。岩場でうねりに煽られてけがをしたり波酔いしたりして気分が悪くなるなどもよくありますので注意しましょう。冬場の海に潜るときは特に自分のダイビングスキルをアップしておく必要があることを理解してほしいです。

【中級編】水中写真の第10回まとめ

以上、「ダンゴウオの写し方」についてお伝えしました。水温は高くても13度ほどですので寒さ対策を万全にしてじっくりとダンゴウオ撮影を楽しみ、かわいらしい最高の1枚を写してくださいね。

最後に今まで写したダンゴウオの1番の写真をアップします。日本でもあまり多くの場所では見られていないそうです。これは「ダンゴウオの抱卵」です。オスのダンゴウオが卵を守っている様子です。奥にイクラのようなオレンジの卵が見えるのがわかりますか?寒い海で小さなダンゴウオが必死に生きている姿に感動したことを覚えています。

次回は「水中ストロボ」についてお伝えする予定です。ありがとうございました。

【中級編】ダイビングの楽しみが広がる!水中写真

【中級編】ダイビングの楽しみが広がる!水中写真 第11回ストロボやライトを使おう 前回の水中写真10では「ダンゴウオの撮り方」についてお伝えしました。ダイバーに人気のダンゴウオの魅力や撮り方を分かってもらえたでしょうか。寒い海でのダイ[…]

最新情報をチェックしよう!