【中級編】ダイビングの楽しみが広がる!水中写真 第7回クマノミの撮り方
前回の水中写真その6では、「マンタ」と「地形」を撮るコツについて、作例を使いながらかなり詳しい内容でお伝えさせていただきました。今回のその7では、ダイバーはもちろんのこと、熱帯魚の観賞用として一般の方にも人気の高い「クマノミ」を撮るコツについてお伝えします。
かつてはクマノミと言えば沖縄などのあたたかい海にしか生息していない熱帯魚でしたが、最近では地球温暖化の影響からか本土の海でも越冬し、繁殖する場所も珍しくなくなってきました。沖縄の海に行かなくてもクマノミは普通に撮れる被写体なのです。
撮影のコツに入る前に、まずは少しクマノミについて説明させてもらいますね。
目次
1.日本で見られるクマノミは何種類?
一言でクマノミと言っても実にたくさんの種類がいるのです。海外に行けばその地域だけに見られる「固有種」のクマノミも多くいます。筆者も海外に潜りに行くたびに「現地でしか見られないクマノミ」をリクエストして撮影しています。それほど水中写真を何年やっても、また数多く撮っても納得できる写真がなかなか撮れません。何度でもチャレンジしてかわいらしく写したいと思えるほどの魅力的な被写体なのです。
さて、見出しの答えから言いますと、日本で見られるクマノミは6種類です。本土の海でも見られる「クマノミ」。映画の主人公にもなったニモのモデルの「カクレクマノミ」。
その他にも「ハマクマノミ」「セジロクマノミ」「ハナビラクマノミ」、そして日本で1番会うことが難しい「トウアカクマノミ」の6種です。「クマノミ」以外の5種は南国でしか常時見ることはできません。
なぜ最初にクマノミについて説明したかというと、クマノミの種類によって行動パターンが全然違うからです。そうなると当然写真の撮り方やカメラワークも違ってきます。水中写真の上達には、海の様子や環境を知ることや、その魚の生態を勉強することはとても大切なことなのです。
例えば、たった6種類のクマノミでも、イソギンチャクから頻繁に飛び出してくるクマノミもいれば、イソギンチャクの中を動き回るクマノミもいるのです。またカメラマンに攻撃してくるクマノミもいます。種類がわかれば対策も変わってきます。せっかく写すのですから、被写体の名前と特徴を覚えておき、撮影の参考にするといいでしょう。
2.クマノミが住んでいる場所はどんな所?
クマノミはどの種類もイソギンチャクに住んでいます。毒を持つイソギンチャクですがクマノミは体から粘液を出すことによりその毒に影響されることなく住処にすることができるのです。このクマノミとイソギンチャクの関係は「共生」と呼ばれています。
クマノミの種類によって住処となるイソギンチャクも変わってきます。写真に撮る場合には「背景に気を付けることが大切」だと以前にお伝えしましたが、今回の場合は「イソギンチャクの形状や色」を考えながらその住処を背景にしてクマノミを写すことが求められます。
つまり、クマノミのアップを写したりかわいい顔を写したりするだけではなく、背景となるイソギンチャクにも気を配り写すことで、ワンランクアップした写真を撮ることができるはずです。
その魚の生態を勉強しておくことが、写真のレベルアップにつながることをもう1度お伝えしておきますので思い出していただきたいです。さて、予習はこのくらいにして、いよいよ撮り方のコツについてお伝えしていきましょう。
3.水中写真の器材を準備しよう
以前、水中専用カメラでクマノミを写していた時は「クローズアップレンズを装着してレンズの前についている2本の棒の間にクマノミを入れて撮る」という、今では見ることがほとんどない「アテチョン」と呼ばれる方法で写していました。当時はフィルムでしたので、動き回るクマノミを写すことは至難の業で多くのピンボケ写真を出したものでした。
最近ではコンデジでもきれいに撮ることができます。特にシャッターを押してから実際に写真が撮れるまでの時間差(タイムラグ)が短くなったことで、動き回るクマノミでもピントを合わせやすくなりかなり撮りやすい被写体になりました、
クマノミ撮影にコンデジを使う場合は「マクロモード」にセットしましょう。クマノミも小さくない個体を選べばコンデジ本体で十分に写すことができます。次の4でも触れますが、幼魚を撮る場合はクローズアップレンズが必要となりますので、レンズホルダーにセットして海には持って入ることがいいでしょう。
クマノミは基本動き回る魚です。もちろん動きを止めることもありますが、AFを使用する場合は動く被写体にピントを合わせ続けるモード(自動追尾など)に設定しましょう。
一眼カメラを使う場合はマクロレンズを準備してください。通常サイズのクマノミを写す場合は50mmクラスのマクロレンズで十分です。幼魚などの小さなクマノミを写したい場合は100mmクラスのマクロレンズがおすすめです。
クマノミやイソギンチャクのきれいな色を出すことができるように、外付けストロボを必ず使用してほしいです。クマノミが住むイソギンチャクは時として岩と岩の狭い隙間など撮りにくい場所にいることも珍しくありません。
イソギンチャクに近寄りすぎると岩が邪魔になり、外付けストロボの光が届かなくなることもあるので、そうした場合は少し離れた場所から写さなければならないこともあります。そうしたことから、筆者は常時100mmレンズを使用しています。
4.大切なことは水中カメラのシャッターチャンス
クマノミをきれいに写す1番のポイントはズバリ「シャッターチャンスを生かす」ことです。クマノミのその瞬間を逃さずにシャッターを押すことができればかなりいい写真が撮れていると言って過言ではないでしょう。
「クマノミのいい写真を撮るためにこうしたらいい」というオススメは2点あります。
クマノミを撮影するポイント①
1つ目は、「最初はカクレクマノミ、セジロクマノミがおすすめ」ということです。1でも少し触れましたが、これらのクマノミはイソギンチャクから飛び出して泳ぎ回ることは少なく、ほとんどイソギンチャクの中を泳ぎ回っています。
ですから「イソギンチャクの中だけ観察してシャッターチャンスを狙う」ことができます。逆に「ハマクマノミやトウアカクマノミ」はイソギンチャクの外を泳ぐことも多いので、きれいに撮るハードルは高めになります。
しかしハマクマノミにも個体差があり、中には動き回らないものもいますので、それに出会えたらラッキーです。じっくりと狙ってみましょう。
クマノミを見つけたら、まずはカメラを構えないでじっくりと動きを観察してみてほしいのです。するとその魚の「行動パターン」が見えてくるはずです。動き回るコースがほぼ決まっているとか、ある場所で動きを止めることが多いとか、必ず行動パターンがあるものです。
シャッターチャンスを狙うなら「動きを止める場所」を観察で見つけ、いくつかあるその動きを止めるポイントの中で背景となるイソギンチャクがきれいに写りそうな場所を見つけ、そこにレンズを向けてジッと待つのです。言い換えるなら「待ち伏せ作戦」です。
後はそのポイントに来て動きを止めたときを逃さずにシャッターを押しましょう。クマノミが逃げても追いかけず、そこで待ち伏せしておけばまたそこにやってきます。あなたは石のように動かず、ジッとそこで待っておくことが大切です。
クマノミが真正面を向いたときや、表情が豊かな時、あるいは口を開けて威嚇してくるときなどは絶好のシャッターチャンスです。その一瞬を逃さないように集中しましょう。
クマノミを撮影するポイント②
2つ目は「小さなイソギンチャクに住んでいる個体を狙おう」ということです。イソギンチャクが小さいとクマノミの行動範囲が限られます。行動パターンを観察しなくても、イソギンチャクの範囲でしか行動しないことが多いのでカメラの位置を決めやすくなります。例えクマノミの動きに合わせてカメラを動かすにしても範囲は狭いので楽です。
後は同じでシャッターチャンスを逃さないことです。小さなイソギンチャクにはクマノミの幼魚が住んでいることも多いので、かわいらしい写真が撮れる確率が高くなりますよ。
その辺りの情報はガイドがよく知っていますので、撮りたい写真について伝えておくとガイドが案内してくれたり見つけたときに呼んでくれたりしますので、リクエストしておきましょう。
5.クマノミをドアップで撮らないという方法もあります
以前「構図」の時にお伝えしましたが、写真の中に「空間」を作ることがとても大切です。クマノミの場合は画面いっぱいにクマノミを写すのではなく、「あえて空間にイソギンチャクを入れてみて、クマノミを小さめに写す」ことも試してほしいのです。ここで大切になるのが2でお伝えした「イソギンチャクの形状と色」になります。
空間を生かすことによりあなたはいろいろのことを相手に伝えることができます。クマノミが住んでいる環境やイソギンチャクと比較することによるクマノミの大きさ、あるいはあなたがイメージしたメルヘンの世界等、様々な表現ができるのです。これはクマノミに限らず、どの被写体にも応用することができます。クマノミ撮影でしっかり身に付けておくことをおすすめします。
6.クマノミをマクロだと決めつけなくてもいいのです
イソギンチャクの場所にもよりますが、けっこう「ワイドレンズ」、それも「フィッシュアイレンズ」を使ってクマノミを写すことが多いです。「クマノミは小さな魚だからマクロレンズやクローズアップで撮る」という固まった考え方を捨ててしまって、「広い海とクマノミを撮る」という視点で考えたらワイドを使うのもありだと思いませんか?
ワイドレンズ、特にフィッシュアイレンズの特徴として、「思いきり近寄ってもピントが合う」ことがあげられます。この特徴を生かし、思いきり寄れる範囲でクマノミやイソギンチャクに寄ってみてください。
絞りを大きくする(fを8や11にする)と被写界深度でピントの合う範囲がさらに広くなりますので、クマノミが写っているとわかるぐらいまで寄ることが大切です。そうして写した写真はまた違った雰囲気の写真が撮れているはずです。
コンデジの方はフィッシュアイコンバージョンレンズを使ってみるといいでしょう。ただし内臓ストロボだとケラレが出てしまい、被写体に光が当たらないことが起こります。必ず外付けストロボを使用するようにしましょう。
以上、クマノミを撮るコツについてお伝えしました。沖縄には「クマノミ5種」と呼ばれているポイントが結構あり、そこなら1ダイブでトウアカクマノミを除く5種類のクマノミを見ることができます。1ダイブで5種類のクマノミをきれいに写すことだって十分可能なのです。
【中級編】水中写真の第7回まとめ
海外には固有種のクマノミも多く住んでいます。筆者が見たいと思い、また撮りたいと思っているのは「トマトアネモネフィッシュ」というクマノミです。そのうちに会いに行きたいと思っています。どこに潜りに行っても楽しめる被写体がクマノミです。設定を陸上でしっかりやってから、水中ではシャッターチャンスに集中していい写真を撮ってほしいです。
次回は「ウミウシの撮り方」についてお伝えします。
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